
店にたどり着きアルミサッシの引き戸をあけ奥まですすみ、4人がけテーブルに着きました。
11時30分、先客は5人でした。おばちゃんが水を運んできて、「注文どうぞ」と問いかけてきます。
堅い焼きそば・・一呼吸空けて大盛りで!と付け加えます。
かなり大きい声だったので、入り口横で自らの皿にかがんでいた客の一人がこちらを振り向きました。
それは、どんな奴が大盛りという声を発したのか見てやろうという行動でしょうか。
その表情にはわずかながら笑みに似たものが浮かんでいました。
角に据えられたテレビを、見るともなしに見上げつつ店の様子なども観察します。
入り口脇には新聞雑誌の類が積み上げられたラックがあります。
テーブルは4人がけの四角いタイプが7つほどあったでしょうか。
6人がけぐらいの円卓もみられます。
国道側の出窓状の部分には夥しい数のコミック単行本が並べられています。
壁には一枚の絵がかかっています。女性の姿を描いたそれは、ちょっとした妖艶さも漂わせ
この店には似つかわしくないものです。
正午が近づくにつれ、続々と客はやってきます。
円卓では相席状態となっています。
おばちゃんもう若くはないのですが、テーブルと人で密集した店内を飛び回り、注文をとり、料理を運び、調理の補助までしています。
すばやい動きとはいえませんが、無駄な動きはなく、時折笑みも浮かべています。
この器量もこの店を支える重要な要素なのでしょう。
客の中には常連と思しき人々が多くおりました。
ここはどの町にもある愛すべき中華料理屋なのです。
さて、そのおばちゃんが恭しく捧げるようにもって来たのが、
このどんぶりです。

厨房から私の座る奥のテーブルまで店内を縫うように歩んできます。
皆この器を見て騒然となりました。
あるものは苦笑しあるものは目を見張り、談笑していたものも黙り、店内は一瞬奇妙な静寂に包まれました。このどんぶりが置かれたその前には私がいます。
皆の視線を痛いほど感じ、私も何も知らずにたのんでしまいこの状況に途方にくれているという間抜けな人間ではないことを証明するため、待っていましたとばかりに携帯を取り出し、わざとおうぎょうな態度をとり撮影しました。
ピンボケになってしまったのは、店内の光量の不足もあるのですが、おそらく手が細かく震えていたせいかもしれません。

実際少しおののいてはいました。見た瞬間これはお手上げというレベルなのですが、どこまでいけるか食い尽くしてやるというチャレンジ精神も芽生えてきました。
堅焼きそばは既製のものだと思われます。上にはもやしや豚肉、かまぼこ、きくらげ、たまねぎを伴った餡がかけられています。濃さもちょうどいいです。
堅焼きそばは私の好物のひとつでもあります。
惜しむらくは、これを普通盛で食べたかったです。
食べ進むうちに味の単調さに耐えがたくなってきました。
そこで酢をいれ、スープを入れたりなどして何とかがんばってみました。
しかしだんだんバランスが崩れてきました。
私決しておかず食いというわけではないのですが、どうにも具のボリュームに頼りなさを感じるようになってきました。
この頃には店内は満席になっていました。
私のテーブルにも向かいに人が座り、携帯で話したり、また絶えず煙草をふかしたり・・・
こうなると食い続ける意欲はだんだんと萎えていきます。
そのうちに餡もなくなりソバだけになった時点で、心ならずもギブアップしました。

もう少しいけたような気もしますが、もうこうなると料理とはいえなくなってしまいました。
忙しく立ち働くおばちゃんを捕まえ650円を支払い、逃げるように店をあとにしました。
やはり人気店のようです。表に出ると店外に10人ほどの行列ができていました。
メニューには大盛りに関する表示は一切ありません。
それはこの店独自の符丁のようなものです。
この店の「大盛り」が何たるかを知ったもののみが、オーダーし
それを平らげるだけの実力を持つもののみが、たのむ資格があるのです。
客は向かいの工場の従業員、近くの現場の作業員などが中心です。
働くものたちがその後半の作業に必要な滋味を得るため食物を摂取する場所です。
今日の私、食えもしないのに、食を題材にしてアトラクションを求めてしまいました。
食い物に対するいい加減な態度であり、非常な後ろめたさを感じました。
老夫婦が営み、常連が通う、まったりした雰囲気の中に入りこんだ異分子に違いありません。
これを食いきるためのティップを少々。
大盛りチャレンジ的姿勢で臨まなければ決して食いきれるものではないでしょう。
餡とそばのバランスはもとより崩れていますし、食い始めの時点でそばを余らせない配慮が必要です。
同じ味が続くというのが、量そのものよりもひとつのハードルとなるでしょう。
いろいろな調味料で、絶えず味を変えていくのもひとつの方法です。
昼時はかなり込むようですので、悠長に挑んでいる余裕はありません。相席になるのは必至です。食っている最中に向かいで煙草などすわれたら、もうそれだけで完食への意欲はそがれてしまいます。
とおしの営業のようですので、昼休みの時間をはずすのが懸命な選択です。
「東佳」
住 所:横浜市戸塚区柏尾町172、国道一号線戸塚舞岡交差点。(駐車場無し。路駐絶対に無理)
時 間:11:00~20:00
定休日:月曜
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