「あづち。ちょっと待って。」
「何だよ、早く来いよ。健。」
「あの建物の入り口見てみろよ。」
あづちはまさに森に分け入ろうというところで振り返ります。
「早く行かないと日が暮れちゃうぜ。」
「いいから・・・ちょっとこっちに来てみ。」
少し秘密めかすように声の調子を落として、あづちを促します。



温州みかんと書かれた丈夫な段ボール箱。
外側には汚れが見当たらず、今まさに何者かが置き去ったばかりという様相です。
”どうしても中を見たい”箱を見ているうちに、だんだんとそんな気持ちが芽生え、押さえられなくなってきました。
しばらくふたりで箱を見下ろしていました。
前にそんな箱をゴミ捨て場で見つけたことがあったっけ。
中には英語で書かれた多くの手紙、そして底部には目にも刺激的な写真集が・・・
文字は英語、写真はノーカットといわれる類のもの。
初めて見ました。
(写真集はその時同行した兄貴の仲間で、ボスのタイチが独り占めしてしまったので、僕もあづちも一瞬しか見れませんでした。)
またあんな箱かもしれない。
そういえば前は、きゅうりの箱だった。
外観もよく似ている。
「もしかして・・」
「そうかもな」
「健。お前見つけたんだからお前開けろよ」
「う~ん」
頷いてはみたものの、少し怖い気もします。
また写真集なんか出てきた日には、僕らの手に余ります。
といってこのままうち捨て、ほかの人に持っていかれるか、雨ざらしのまま朽ちさせてしまうのは惜しい。ちょっと中をのぞいてみて、後はタイチにあげるのがいいのかな。
誉められるだろうし・・・
その時手を出しかねていたあづちがかるく箱を蹴りました。
「わぁっ」
蹴るなり僕もあづちも飛び退きました。
箱は蹴られた後小刻みに震え、しかしその震えはやまずに、むしろだんだん大きくなって行きます。
中からはかさかさという音も聞こえます。
何か生きているものが、箱の中に入っているようです。
「何だろう、犬かな。猫かな。」
「ひよことかにわとりかもしれない。」
僕はあづちを促します。
「あけてみる?」
「うん。」
そう答えたもののあづちはためらっています。
まさか蛇とかねずみが入っていることはないだろう。
ここは、箱を見つけた僕が開ける番だな。
僕は覚悟を決めると、あづちに箱の下を押さえてもらい、互い違いに封をされた上部の一端を
力いっぱい引きました。
硬いダンボールのふたは4辺が勢いよくはじけ、開き、一瞬にして中身があらわになりました。
光を浴びた中の生物は一斉にうごめき始めます。
「犬だ!!」
「捨て犬だよ」
子犬が5匹。茶色に黒のぶちが混じり特定の犬種ではないようです。
僕らが手を差し出すと、それをめがけていっせいにじゃれ付いてきます。
僕の指は、一番活発なやつにかまれてべちょべちょ。
「名前つけようぜ」
「名前つけようぜ」
「じゃぁこいつはジム。こいつはジョン。こっちのはポール。」
「メスはジュンとネネだな。」
一匹抱き上げてなでてみます。
白いおなかはぽこっと出っ張り、ぷよぷよしてます。
耳は折れ曲がっていて、目の上にはちょうど眉毛のように黒い模様があり、
そこにまつげのように毛が生えています。
かわいい。すごくかわいい。ずっと撫で回していたい。
僕とあづちとでかわるがわる子犬たちを抱き上げ、じゃれ付くままに遊ばせ、そうやって一時間ほども戯れていたでしょうか。
僕らはこの素晴らしい宝物を、さてどうしたものか、現実に立ち返ったのです。
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