神奈川県北西部の山深く、幻のカレーを提供する場所があるという。
そこへけばどんな夢も叶うというよ
誰もが行きたがるが遙かな世界
その国の名はガンダーラどこかにあるユートピア
どうしたら行けるのだろう。教えてほしい。I
人家もないような場所。果たして食堂などあるのだろうか。
川沿いをしばらく走ると小山の麓に開けた場所があった。
鈍色の雲が空を厚く覆い、いつしか雪が降り始めていた。積もることはないであろうが、私のフォードの足回りは雪道に対しては余りに脆弱だ。
視界も霞み、仕方なく私は車を停めた。
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蔓の絡まる電柱ににわかに勢いを増すヤマブドウ。まさに落ちんとするスイッチボックス。
植物の繁茂する様子を面白く思い撮影している最中、私の思いが何かに触れた。
にわかに現れた幻想にも似た光景に私は身の震えを抑えることが出来なかった。
時を遡り、荒れ地に忽然と現れた昭和期の意匠。
過去からやってきたその建物を私は確かに見た気がする。
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もう絶滅したであろうかつての集合型店舗は現れた。
左側にはひっそりと一食堂があった。奥にはかつてスーパーマーケットがあったのだろうか。
半透明の人間が売り手買い手を演じている様がぼんやりと見える。
私は意を決し手前の店舗のドアを開いた。

にわか誂えのカウンターとおぼしき集成材に六席の丸椅子が配されている。
その一番手前でテレビを見上げていた老婦人は
”三品食堂へようこそ”と微笑むと、厨房内部に消えていった。
奥の暗がりから呪術師・ヨーダとでも形容される老人が私を出迎えた。
「カレーをください」
メニューも見ずそれだけ告げ私は先に老婦人の座っていたカウンター左端に腰掛けた。

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老齢ではあるが眼光鋭い店主の一挙手一投足に目を奪われていた。
今まで曲がっていた腰がしゃんと起き、体を揺らし合気道の使い手のように食材を捌いて行く。
背後からその手元は見えないが老齢にあるまじき素早さが感じられる。
客席と比して広い厨房の壁一面はステンレスで覆われている。
そこに吊るされた多種多量の鍋・フライパンに目をみはる。
それぞれ材質は違うようだが、すべて打ち出しで成形された年代物のようだ。
それらが綺麗に磨かれ整然と並んでいる。
その様を見るだけで店主の技量は推し量れる。

視界の左隅にはテレビ画面が映るが内容は全く入ってこない。
しかしその音を聞き私は凍り付いた。
♪お昼休みはウキウキウォッチング、あっちこっちそっちどっちいいともぉ~♪
恐る恐る左を見上げると濃いサングラスをかけた小柄な男が確かに写っていた。
店内に漂う複雑なスパイスの香り。それは私を過去へと誘う催眠剤のようにも思えた。
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「もう少し辛い方がいいんですけど・・・」私は訊ねた。
「残念だけど本当の”スパイス”は1969年以来なくなってしまったよ」
老人はそう答えると小瓶に入った”秘薬”を振りかけてくれた。
その瞬間、私はまるで”千尋の父”のように畜生になってむさぼりついた。
麻薬にも似たスパイスの芳香に私はさらに深淵へと落ちていった。

最後に覚えていることは、重い足を引きずり店を後にしたこと。
ドアを閉めるとき老人は見送りながらささやいた。
「気になさらずに。これは定められた運命なのです。
あなたはこうして出て行くが、しかし離れることは出来ないんですよ」

車に乗り込みしばらく走った。
川の対岸から店があったとおぼしき場所を眺めてみたが
そこには荒れ地の空疎さが広がっているだけだった。

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な~んて書いて遊んでしまいましたが、山北ののどかな場所にある、素朴なお店です。
「三品食堂」神奈川県足柄上郡向原68-4
先の写真の通り、メニューはラーメン、カレー、焼き肉定食の三品です。
「オモウマ店」のような面白さはありません。しかしおいしい料理を多量にいただける店であることは間違いのないところです。
この日は2回目の訪問でした。前回カレーを堪能したので今回は焼き肉にするつもりだったのですが、店先からすでに香るカレーの匂いは抗いがたいものがあり、今回もカレーで。
老夫婦により営まれるカウンター6席しかない小さなお店です。
面白半分に大勢で出かけ、店主夫婦の負担になるような状況にはなってほしくないものです。


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